読書メモ「逆さに吊るされた男」田口ランディ

オウム真理教の事件は、私が20代前半におきました。当日、時間は違うものの日比谷線に乗っていたこともあり、あの事件は、鮮明に記憶に残っています。
田口ランディさんの「逆さに吊るされた男」は、実在のこの事件の死刑囚と筆者の交流をモチーフにフィクション仕立てにした小説で、先日の死刑執行後に手にとって読みました。

おそらく筆者自身であろう、主人公の女性作家が死刑囚との長きに渡る交流のはてに、自分自身の思考を引いてみる瞬間が訪れて、その体験を通して、自分なりにオウム真理教というもの、麻原と信者の間におきた心理の一端を掴む…というところで終わる物語です。

なぜ麻原はあそこまで信奉されたのか。信者たちは犯罪にまで至ってしまったのか。オウム側とこちら側、彼らと自分をわける境界線はどこにあるのか、それに対する考察の1つとして、この本を受け止めました。

途中、交流する「殺人マシン」と言われた死刑囚が、主人公のオウムの捉え方を見て「大丈夫ですか? これ以上深入りしないほうがよいのでは…」と心配するくだりがあります。また、最後に主人公は自分を「遅れてきたオウム信者」だったと語ります。

主人公と死刑囚の交流の過程を追って行く中で、読者は「オウム的なもの」にはまりこんでいく心理プロセスの1つを垣間見ることになります。そしてそれは、他人事とは言えない、自分の中にも心当たりがある心理で、作者は身をもってそれを体験し、創作という形で見せてくれています。

オウムの事件から20年以上が過ぎたいま、遅ればせながら本作に続いて、村上春樹さんの「アンダーグラウンド」「約束された場所で」を読んでみようと思います。むしろ今の時代のムードだからこそ、事件についてのさまざまな考察を知っておきたいと思っています。
逆さに吊るされた男

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